はじめに 「自分のサイトは、生成AIに引用されているのだろうか」
「AI検索に自社がでているか」ーーその確認、自分でできますか?
はじめに——確認の手段は、もう配られている
「AI検索に、自社は出ていますか」
この問いを、最近よく見かけるようになった。GEOの専門家たちが投げかけ、企業が不安になり、診断へ申し込む。その流れ自体は、健全だと思う。確かめようとする姿勢は、何もしないより、ずっといい。
確認の手段も、もう配られている。自社名をChatGPTに尋ねるだけの診断シートがあり、ブラウザに会社名を打ち込むだけで、複数のAIをまたいだ言及数が一瞬で出てくる無料ツールもある。専門家がていねいに手順を解説した記事も、いくつもある。週ごとに記録をつけることを勧めるものまである。
つまり、「自分では確かめられない」という話ではない。手段はある。
それでも、この一回分の観察を残しておきたいと思ったのは、配られた手段を実際に自分の手で使ってみて、「確かめられた」という感覚と、「これで何かわかったのか」という感覚が、最後まで噛み合わなかったからだ。
少なくとも、この一回は、そうだった。
SEOには、足場があった
比べてみると、わかりやすい。
SEOの確認は、誰にでも開かれていた。検索窓にキーワードを打ち込めば、自社が何位にいるかが、一枚の画面に並ぶ。三位なら三位。十位なら十位。その数字が良いのか悪いのかも、上に二社いる、という事実から、おおよそ見当がつく。
順位という、客観的な足場があった。だから素人でも、自分の現在地を、自分の目で確かめられた。
GEOには、その足場がない。少なくとも、同じようには見つからない。AIの回答は一枚の順位表として並ばないし、同じ問いを投げても、返ってくる答えは毎回少しずつ違う。
この違いが、確認という作業を、思っていたよりずっとややこしくしていた。

測り方の引っかかり——どの道具も、一枚の手がかりしかくれない
配られた手段を、ひとつずつ使ってみた。
まず、専門家が配っている無料の診断シート。自社名をChatGPTに尋ね、いくつかの項目をチェックしていく形式だ。ブラウザだけで、今日できる。この手軽さは、確かに価値がある。最初の一歩としては、よくできている。
ただ、使ってみて気づいたのは、これが「一回チェック」で完結する設計になっていることだった。一度聞いて、出てこなければ「未対応」。出てくれば「対応済み」。
だが、AIの回答は揺れる。
これは私の印象ではない。独立した調査がある。SparkToroが2025年末に行い、2026年に公開した調査では、六百人が十二種類の問いを投げ、約三千の回答を集めた。そこでわかったのは、同じ問いに対して、返ってくるブランドのリストがそっくり同じになる確率は一パーセント未満、順番まで同じになる確率は〇・一パーセント未満だった。
つまり、一回投げて出てこなかったとして、それは「出ていない」のではなく、「この一回は出なかった」に過ぎないかもしれない。診断シートは、その揺れを考慮していない。一回の結果を、確定した答えとして受け取らせる。
次に、業界最大手の無料ツールを使った。自社名を入れると、ChatGPT、Gemini、Google AI Overviewまで横断した言及数が、一瞬で出てくる。手作業ではとても集められない規模のデータが、無料で手に入る。これは率直にすごいと思った。
試しに、誰もが知る大手企業の名前を入れると、桁違いの数字が返ってきた。中堅企業ならその一段下、無名のブランドならさらに小さく。知名度の順に、きれいに桁が変わっていく。ツールは、現実をちゃんと捉えている。それは間違いない。
問題は、その先だった。
自分の媒体名を入れると、言及数は「2」だった。
この「2」が、良いのか悪いのか。私には判断できなかった。比べる相手が見えないからだ。同業他社が、同じ条件で、いくつなのか。その比較データは、鍵のかかった有料版の向こうにあった。
ここで、はっきりしたことがある。無料ツールは、数字を出す。だが、その数字に意味を与える足場——比べる相手——は、出してくれない。SEOの「三位」は、それだけで意味が読み取れた。GEOの「2」は、比較データなしには、ただの数字だ。
道具にも、二つの種類があるとわかった。その場でAIに問いを投げるタイプは、揺れる。あらかじめ集めたデータを見せるタイプは、安定して見えるが、どんな問いで測ったのかが見えない。
どちらも、数字は出る。けれど、どちらも、判断する足場まではくれなかった。
これが、測り方の引っかかりだ。
——ただ、ここで終わりにすると、話を見誤る。
測り方の揺れや、比較の見えにくさは、確かにある。でも、これらはまだ、手前の引っかかりに過ぎない。もっと奥に、もっと大きな引っかかりがあった。
本当の引っかかり——その問いは、誰が立てたのか
診断シートにも、無料ツールにも、共通する前提がある。
「自社名を聞く」と「業種+おすすめを聞く」を、並べて測ることだ。
たとえば、「●●税理士法人について教えて」と「東京 税理士 おすすめ」を、両方やってみましょう、という具合に。そして、その結果をまとめて「AI対応度」のような一つの点数にする。
ここに、二つの引っかかりがある。
ひとつ目。この二つは、まったく別の問いだ。「自社名を聞いて出てくるか」は、すでに名前を知っている人が確かめる問い。「おすすめを聞いて選ばれるか」は、まだ知らない人に見つけてもらう問い。前者と後者では、測っているものが違う。それを足し算して一つの点数にすると、片方の弱点が、もう片方の数字で薄まってしまう。総合点は、わかった気にさせるが、何もわからなくさせる。
ふたつ目。これがもっと大きい。
「業種+おすすめ」という問いを、本当に買い手は立てるのだろうか。
BtoCなら、立てるかもしれない。近所のラーメン屋、引っ越し業者、それなら「地域名+おすすめ」で検索する人はいるだろう。
だがBtoBでは、その問いはほとんど立たない。法人の買い手は、たいてい業界をよく知っている。「税理士 おすすめ」などという、漠然とした問いは投げない。彼らが投げるのは、もっと絞られた、具体的な問いだ。「製造業の輸出取引で、消費税の還付申告に強い税理士」とか、「IPO準備中のSaaS企業の監査対応を、月次でやってくれる事務所」とか。
そういう問いだ。
そして、ここがいちばん肝心なところなのだが——
その問いを、誰が立てられるのか。
GEOの専門家には、立てられない。なぜなら、彼らは測り方のプロであって、その業界の中の人ではないからだ。「製造業の輸出取引で還付申告に強い」という問いが、なぜ買い手の頭に浮かぶのか。その背景にある実務の痛点を、業界の外にいる人は知らない。
その問いは、業界の中で、毎日客に向き合ってきた人の中にしかない。
リアルな問いは、ツールの中にはない。当事者性の側にある。日々、客から受けてきた質問。商談で詰まった論点。見積もりの前に、必ず聞かれること。その記憶の中に、もうある。
これが、検証で本当に難しく、本当に肝心なことだった。回数でもなく、ツールの精度でもなく、「客が本当に立てる問いを、自分で言い当てられるか」。そしてその問いは、当事者にしか持てない、一次情報そのものだった。
——ただ、念のために書いておく。良い問いを立てたからといって、揺れがなくなるわけではない。問いの質と、測り方の揺れは、別々に残る。良い問いで投げても、AIの答えは、やはり毎回少しずつ違う。問いを言い当てることは、確認の出発点を正しくする。それでも、答えそのものは揺れ続ける。この二つは、混ぜずに分けて考えておきたい。
立場が、逆転する
そう考えると、確認という作業の主役が、入れ替わる。
確認を丸ごと外注しよう、と思っていた頃の私は、専門家に問いの設計から答え合わせまで、すべてを任せられると思っていた。
だが、そうではなかった。専門家に任せられるのは、測り方の部分だ。どのツールが揺れにくいか、どう記録を積めばいいか、データをどう読むか。そこは確かにプロの領分だ。
けれど、何を問うべきか——その一点だけは、当事者の手元にしか残らない。外から持ってくることができない。
だから、自分で一度、確かめてみる価値がある。良し悪しを判定するためではない。「この数字は何回投げた結果か」「この問いは、本当にうちの客が立てる問いか」を、自分で問えるようになるためだ。一度この壁にぶつかっておくと、誰かに確認を頼むときも、その仕事の質を見抜く目が持てる。
その目の中身は、精神論ではない。揺れを知っていること。比較の足場がないことを知っていること。そして何より、自分の客の問いを、自分が一番よく知っていること。それだけだ。
なぜ、残すのか
n=1の観察だ。2026年6月の、ChatGPTやPerplexity、Geminiを触った、一回分の記録に過ぎない。時期が変われば、モデルが変われば、挙動も変わるだろう。同じ環境で五回連続して確かめたものでもない。
それでも残しておきたいと思ったのは、「確認できない」という諦めでも、「専門家に任せれば安心」という丸投げでもない、第三 の場所があると気づいたからだ。
確認の手段は、もう配られている。けれど、その手段に意味を与える問いは、まだ誰も配ってくれない。それは、自分の中にしかない。
第8回で、世界に一つだけの記事は引用されるのか、という話を書いた。希少な部品ほど、AIに拾われやすいのではないか、という観察だった。今回たどり着いた「当事者にしか立てられない問い」は、あの希少な部品と、たぶん同じ場所から出ている。外から持ってこられないもの。自分の中にしかないもの。
それを言葉にする仕事が、これからどうなっていくのか。
次回は、そこを書こうと思う。AIが文章を書く時代に、それでも人が書く意味は、どこに残るのか。当事者の一次情報を、言葉にするという仕事の話だ。