AI実務設計ログ

AIの検索語を見れば、見えなくなった「顧客の問い」は分かるのか

作成者: 椎名真弓|Aug 21, 2026, 8:00:22 AM

サイトに来る前が、見えない

先週書いたのは、AI検索が増えると、企業から顧客の何が見えなくなるのか、という話だった。訪問があったことは分かる。けれど、その手前でその人がAIと何を話し、何を尋ね、どこで関心を深めたのかは分からない。比較や検討の過程が、「来た」という一点に圧縮されて届く。

書き終えたあとに残ったのは、では代わりに何を見ればいいのか、という問いだった。

 

AIが展開した検索語なら、たどれるかもしれない

AIは質問に答えるとき、その問いをそのまま検索するわけではない。複数の検索語に展開して、外部を調べにいく。fan-out query と呼ばれるものだ。ふだんは表に出ないが、これを可視化するツールがある[^1]。

会話そのものは見えない。けれど、AIが答えを作るために何を調べにいったかを一本ずつたどれるなら、その手前にあった問いや関心に、間接的にでも近づけるのではないか。先週なくなったと書いた観測点の、代わりになるかもしれない。

そう考えて、試した。

 

「無料で、最初に何を」と聞いたのに、その二つが検索語にない

入れたのは、実際に相談されるときの言い方に近い一文。

「BtoBの小規模サイトがAI検索対策を無料で始めるとき、最初に何をやるべきか、事例を交えて教えて」

表示された検索語は三本。一本目はこれだった。

B2B AI search optimization small website structured data llms.txt case study official documentation

ほかにも、Google AI Overview、structured data、official documentation、FAQ schema、search results CTR といった語が並んでいた。

読んでいて引っかかったのは、自分が書いた条件のうち二つが見当たらないことだった。「無料」と「最初に」。代わりに入っていたのは、structured data や llms.txt や FAQ schema といった、私が一言も指定していない語だった。

ただし、検索語に出てこないことと、答えを作るときにその条件が効いていないことは別の話だ。私に見えているのは検索語の文字列だけで、その先は見えない。無視された、とは言えない。

引っかかりは残ったが、一回では何とも言えない。同じ文をもう一度入れた。

 

同じ問いを3回、検索語は12本。それでも「無料」と「最初に」は出てこなかった

二回目は六本だった。画面が前半と後半に分かれていて、後半には GPTBot や Claude といった、私がまったく触れていない名前や、特定のサイト内に絞った検索が出てきた。

三回目は三本。一回目と同じ形に見えた。だが並べてみると、一致する検索語は一本もなかった。

三回で十二本。完全に一致するものは、ゼロ。

一方で、「無料」と「最初に」は、十二本すべての表面に現れなかった。毎回変わるものと、毎回変わらず欠けているものがある。

もちろん、三回だけで一般化はできない。IABもAI時代の可視性について、方向を見るためのデータと、意思決定に使える測定を分けている。今回の三回は、次に何を確かめるべきかを見つけるための観察だと思っている。

そのうえで、気になったのは毎回変わらず欠けていたほうだった。

 

条件の落ちた検索語から、顧客の問いは読めるのか

ここで最初の問いに戻る。私が見たかったのは、AIの挙動ではない。サイトに来る前に、その人が何を知りたがっていたのか、だった。

その観点で見ると、落ちていた二語は、たまたま消えた単語ではない。

「AI検索対策を知りたい」という主題だけなら、誰が聞いても同じだ。一人ひとりを区別しているのは、そこに乗っている条件のほうになる。予算をかけられない、という制約。何から手をつければいいか分からない、という段階。事例で確かめたい、という納得の仕方。相談を受ける側が本当に知りたいのは、そこだ。同じ主題でも、その三つが違えば、返す答えも順番も変わる。

だとすると、この画面から人の関心をどこまで読めるのかは、まだ分からない。「事例」は case study として残った。一方で、「無料」と「最初に」は十二本の表面になかった。条件のすべてが消えるわけではないし、すべてが残るわけでもない。何が検索語に残り、何が別の形に変わるのか。そのルールは、今回の観察では見えなかった。

条件が効いていなかった、とも言えない。回答の内側で働いていた可能性はある。ただ、企業の側から見られるのはこの画面までで、その先は観測できない。

今回の観察から言えるのは、入力文がそのまま検索語に転写されていたわけではない、というところまでだ。人が何を知りたかったかと、AIが何を調べたかは、同じものとして扱えないかもしれない。ここで見ているのは、人の問いそのものというより、AI側の情報探索行動に近いものではないか。

使えない、という話にしたいわけではない。危ういのは、顧客の問いを見ているのか、AIの探索行動を見ているのかを区別しないまま読むことのほうだ。

 

観測点は増えた。読み方はまだない

最初の問題は、そのまま残っている。AIとの会話は、依然として見えない。

そのうえで、見える画面は一つ増えた。増えたのに、それを何のデータとして扱えばいいのかが決まっていない。見えるデータが増えることと、顧客が見えるようになることは、同じではなかった。

今回は入力文と検索語を突き合わせただけだが、検索語と、表示された参照資料と、最終的な回答文の関係にも別の疑問が残った。それはまた改めて。

次に確かめたいのは、変換のされ方のほうだ。「事例」は残って、「無料」と「最初に」は残らなかった。条件の書き方を変えれば、残るものは変わるのか。そこが分からないうちは、この画面を顧客の声として読む気にはなれない。

[^1]: 使用したのは「ChatGPTクエリファンアウト分析」(umoren.ai の無料ツール)。同ツールは、表示される検索語を、ChatGPTが回答のために実際に使った検索の記録だと説明している。たまたま無料で使えたものを使っただけで、これが標準的な観測手段なのかは私には分からない。本稿はこの説明の妥当性を検証していない

 

出典