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AI検索が増えると、企業は顧客の何が見えなくなるのか

AI検索が増えると、企業からは顧客の何が見えなくなるのか。流入が減るかどうかの話ではない。自分がこれまで顧客理解の足場にしてきたものを、一度数え直してみた記録だ。

 

「AIがやるから、比較サイトは要らなくなる」に、頷けなかった

比較検討はAIが代わりにやってくれる。だから比較サイトはもう要らなくなる。

そういう話を、最近いくつか見かけた。頷きかけて、頷けなかった。

確かに、価格や機能を横並びにする作業は、AIの得意な部類だ。私自身、その手の整理はもう自分の手ではやっていない。表を作るところまでは、任せたほうが速い。

ただ、そこで終わっているかというと、終わっていない。「で、実際どうだったのか」「なぜこれを選ぶのか」。そこが知りたくなると、結局、元の情報まで見にいっている。

だとすれば、AIが引き受けたのは比較サイトそのものではなく、検討の途中にある比較作業の一部なのではないか。そう考えて、少し安心した。整理の工程は持っていかれるけれど、最後の判断のところで、人はやはり元に戻ってくる。ならば流入も、形を変えて残る。

——この安心は、あとで崩れる。崩したのは、流入の話ではなかった。

AI検索が増えると見えなくなるもの

 

自分の行動を振り返ると、行き先は目的で変わっていた

では、自分はどうしているのか。

厳密に記録を取っていたわけではない。ただ、思い返すと、だいたい四つに分かれる。

記事を書くために調べるときは、AIの答えだけでは足りなくて、引用元まで開く。何かを買うときも、最後は公式や実際に使った人の記録まで行く。逆に、ちょっと知りたいだけのときは、AIの答えで終わる。開かない。

四つ目が、気になった。最初は興味本位で聞いただけなのに、やりとりを何度か重ねるうちに、だんだん本気になってくる。そして最後は、元の記事まで行っている。

一人分の行動なので、これを一般化する気はない。ただ、一般化できるかどうかより、私が引っかかったのは、この四つ目のほうだった。

 

企業の側に立つと、その時間はどこにも残っていない

ここで、立場を入れ替えてみる。

その四つ目のパターンで私が訪れたサイトから見ると、私は「突然来た人」だ。しかも、来た時点でかなり関心が深まっている。だが、深まる過程は、そのサイトの外で起きている。

以前なら、その過程の一部は見えていた。検索して、何ページか回遊して、比較記事を読んで、それから問い合わせる。どこで迷ったのかが、行動として残った。

いまは、その途中がAIとの会話に移る。企業から見えるのは、来てからの行動だけになる。来る前に、どんな順番で何を疑い、何に納得したのか。そこは残らない。

この、来訪前にどこにも記録されない検討の時間を、ここでは見えない時間と呼んでおく。

——念のために書いておくと、これは「流入が減る」という話ではない。減るかどうかは別の論点で、私はまだ判断できていない。見えない時間は、流入が増えても減っても、同じように増える。

 

見る方法を知らないだけかもしれない、と思って調べた

見えない、と書いたが、単に私が見る方法を知らないだけかもしれない。それはまずいので、調べた。

手元の実感から書く。あるメディアサイトでは、AI経由の流入が全体の1%弱ある。ほとんどがChatGPTだ。どのAIから来たかも、来てどのページを見たかも分かる。分からないのは、その手前だけだ。

これは設定の問題ではなかった。AI側は、リンク元がどこかまでは渡すが、そこで交わされた会話は渡さない。渡されていないものは、設定をどう変えても出てこない。

では、外から推し量る手段はないのか。これはあった。しかも、思っていたよりずっと整っていた。AIにどんな問いが投げられているかを推定し、その量まで示すツールが複数ある。米国のForbesは、自社の記事が引用されるきっかけになった問いをそうしたツールで把握して、AI経由で来た読者の輪郭をつかむのに使っているという[^1]。

ただ、その数字の出所を見ると、機械が自動で大量の問いをAIに投げて集めた答えか、限られた人たちの閲覧記録を買ったものだった[^2]。実在する誰かの問いを、そのまま見ているわけではない。後者は、参加に同意した人の分しか入らないので、偏りも避けられない。提供している側も、これは方向性を見るためのもので正確な量ではない、という言い方をしている[^3]。

——ここは、はっきり分けておきたい。手がかりが何もない、という話ではない。あるのだけれど、それは観測ではなく推定だ、という話だ。検索ボリュームは、Googleが自分で配っていた。いま配られているのは、外から推し量った像のほうだ。

そこまで書いて、自分に返ってきた問いがある。

では、これまで自分がリサーチで使ってきた材料は、何だったのか。検索キーワード、Q&Aサイト、レビュー、SNSへの書き込み。あれは全部、実在する人が、自分の言葉で、公開の場に置いた問いだった。

新しい道具のほうばかり見ていたが、点検すべきなのは、ずっと使ってきたそちらのほうではないか。

 

ずっと使ってきた材料のほうを、確かめていなかった

いちばん数えやすい場所から見た。プログラマーが質問を投げるStack Overflowだ。ここは投稿データベースに誰でも問い合わせられる公開の窓口があって、月ごとの新規質問数を自分で数えられる。

数えた結果が出回っている。2026年7月の新規質問は1,442件。最も多かった2014年3月は207,204件だった。年間で見ても、かつての百万件台から十万件台まで落ちている[^4]。

——ただ、これをそのまま「AIのせいだ」と読むのは早い。この場所には、質問が厳しく閉じられる文化への反発が生成AI以前から積み重なっていたし、直近には前月より増えた月もあって、底を打ったのかどうかも分からない。

それでも、崩れ方の時期は重なっている。因果は言えない。ただ、公開の場に問いを置く行動そのものが痩せた例として、これは無視できなかった。

次に、日本の一般向けのQ&Aサイトを見にいって、別の壁にぶつかった。数えられないのだ。累計の件数は発表されるが、月ごとの推移を外から取る手段がない。

分かったのは、公式に出ている事実だけだった。生成AIによる回答機能を導入したときの説明が「回答がつかない質問を減らす」ことで[^5]、その後、蓄積された約1.6億件のベストアンサーを参照して回答を生成する仕組みが加わり[^6]、2026年1月からは質問への回答受付期間が7日間から3日間に短縮された[^7]。回答がつかない質問という課題があり、そこをAIが埋める設計になり、回転を速める調整が入った。読めるのは、ここまでだ。

その先は、私の仮説になる。悩みごとをAIに直接投げる人が増えれば、Q&Aサイトに質問を書き込む人は減るのではないか。減るだけでなく、書き込む人の顔ぶれが偏るのではないか。そうなれば、場そのものの維持も、いつかは問題になるのではないか。

——飛躍しないように断っておくと、国内では長く続いたQ&Aサービスが実際に終了しているが、あれは運営会社の事業再編によるもので、生成AIが理由だとは言えない^8

それでも、私にとって重かったのは、二つ目だった。偏りのほうだ。

総量が半分になったことには、気づける。だが、残った半分が誰の問いなのかは、外から見ても分からない。初心者の素朴な質問から先に消えて、常連の込み入った質問だけが残ったとしても、画面上は同じ「みんなの声」に見える。

そしてこれは、さっきの推定ツールの話と、同じ形をしている。母集団が偏っていることが、出てきた数字の顔からは読めない。

 

手元に残るものを、数え直してみる

ここで、前に自分が書いたことを思い出して、少し居心地が悪くなった。

以前、客が本当に立てる問いは当事者にしか言い当てられない、と書いた。いまもそう思っている。ただ、あのとき私は、その問いを言い当てる材料が、公開されたWeb上にいくらでも積み上がっていることを、無意識の前提にしていた。足場を数えないまま、その上で結論を出していた。

なので、数え直す。

商談の議事録。問い合わせフォームの自由記述。カスタマーサポートのログ。展示会で立ち話のついでに聞かれたこと。サイト内検索に打ち込まれた言葉。

どれも新しくない。ずっとそこにあったものだ。相対的に重要になるとすれば、これらが優れているからではなく、外側の観測点のほうが、推定に置き換わりつつあるからだ。

——だから、これで解決する、とは言えない。数が少ない。届く範囲が、すでに接点のある相手に寄る。買わなかった人の問いは、そもそも入ってこない。

もうひとつ、たぶんこれがいちばん厄介だ。手元の声は、社内で集計され、要約される過程で、生の形を失う。「価格への不安が多い」とまとめられた瞬間に、その人が実際に口にした言い回しは消える。AIに投げられる問いは、まさにその、生の言い方のほうなのに。

取りに行けば取れる、という話ではない。取りに行っても、途中で形が変わる。

 

言い切れるところまでは、まだ来ていない

観測から、取りに行くほうへ。そう書いて締めれば、きれいに着地する。

でも、まだそこまで言えない。手元の接点が、外側の観測点の代わりになるのかは、試していない。偏りも、要約で形が失われる問題も、解いていない。今回分かったのは、これまで足場だと思って乗っていたものを、自分が一度も点検していなかった、ということだけだ。

次に試すことは決めた。AI経由で人が着地しているページを特定して、そのページが引用されるような問いを、言い回しを変えながら複数のAIに投げて探す。

——ただ、それで分かるのは「客が実際にこう聞いた」ではない。「こう聞かれたときに、このページが出る」だ。似ているようで、別のものだ。そこを混ぜないように測る。

最後に、この記事を書きながら、ずっと自分に刺さっていた問いを置いておく。

自社が「顧客はこういうことを知りたがっている」と言うとき、その根拠は、どこから来ているのか。そしてその場所は、これからも見える場所にあるのか。

私は、答えを持っていない。ただ、根拠の出どころを一度数えてみる価値はある。今のところ、そう考えている。

 

 

注記・出典

[^1]: Digiday「How Forbes is using ChatGPT referral data to create audience cohorts」(2025年10月30日)https://digiday.com/media/how-forbes-is-using-chatgpt-referral-data-to-create-audience-cohorts/

[^2]: Digiday「Publishers are hunting for AI prompt data. Now they're starting to get it」https://digiday.com/media/publishers-are-hunting-for-ai-prompt-data-now-theyre-starting-to-get-it-from-tk/ ——APIへ合成的な問いを大量投入する方式と、ブラウザ拡張機能等から取得したクリックストリームを購入する方式が主であると解説されている。

[^3]: Conductor「Debunking AI prompt volume」https://www.conductor.com/academy/debunking-ai-prompt-volume/ ——サンプルが母集団のごく一部にとどまること、有償パネルの偏り、プロンプトが一意になりやすく量として集計しにくいことが指摘されている。前掲Digiday記事でも、複数の実務家が「方向性を見るための指標」と位置づけている。

[^4]: 数値の出所はStack Exchange Data Explorer(https://data.stackexchange.com/ )。誰でもSQLを書いて同じ集計を再現できる。報道はPPC Land(2026年8月)https://ppc.land/stack-overflow-drops-to-1-442-questions-in-july-down-99-from-2014-peak/ ——なお同データは削除済み投稿を含まないため、古い月ほど実際より少なく出る点に注意。

[^5]: LINEヤフー プレスリリース「Yahoo!知恵袋、生成AIによる回答を表示する『AI回答機能』を試験提供」(2023年11月)https://www.lycorp.co.jp/ja/news/release/000974/

[^6]: LINEヤフー プレスリリース「Yahoo!知恵袋、AI回答機能において過去のベストアンサーを参照し、独自の回答を生成する『みんなの知恵袋』の提供を開始」(2024年9月26日)https://www.lycorp.co.jp/ja/news/release/009337/

[^7]: Yahoo!知恵袋 公式ブログ「回答受付期間変更のお知らせ」(2026年1月16日、適用は同年1月21日)https://chiebukuro.yahoo.co.jp/blog/2026/01/16-01.html